Green Tea Gyokuro Yame Cha 002

Project members explain the new tea product. ( © Council of Yame Dento Hon Gyokuro)

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福岡県のブランド茶「八女茶(やめちゃ)」が今年、発祥から600年を迎える。味が濃く甘みを感じられるなど高い品質が評価されているが、近年は茶葉からお茶をいれる機会が減少し、生産者や生産量が減り続けている。地元では「八女茶の存続をかけた挑戦」として、600年の節目に改めてブランド力を高め、消費を喚起する動きが盛り上がっている。

 

 

「YAME」の名を世界に

 

八女伝統本玉露推進協議会(福岡県八女市)は昨年12月、世界戦略商品を開発すると宣言した。4月の完成を目指して開発しているのは、八女茶の高級玉露「八女伝統本玉露」を使った1本(500ミリリットル)1万5千円前後の高級ボトリングティーだ。

 

茶業関係者らでつくる同協議会は、発祥600年の今年を世界に挑戦する契機の年と位置付ける。見据えるのは国内外の富裕層。高級緑茶をワインのように愛好する人を想定し、高級レストラン向け商品を開発し、ワインと同等の流通を目指す。開発アドバイザーを務めるカナダ出身の世界的ソムリエ、フランソワ・シャルティエ氏は「世界の富裕層は低・ノンアルコールに向かっている。レストランで食事と組み合わせられるドリンクとして、うまみと甘みを持つ八女伝統本玉露はシェフの興味をかき立てるはずだ」と後押しする。

 

海外での日本茶ブームも追い風になる。農林水産省によると、令和3年の緑茶の輸出額は204億円と過去最高額を記録した。米ニューヨークでは八女茶の取り扱いが徐々に増えているといい、昨年12月に福岡県が開いた茶業関係者ら対象のセミナーでは、現地バイヤーが「ニューヨークでは八女茶が日本茶の中で一番受け入れられている。世界にプロモーションする上でいいポジションにいる」と評した。

 

八女茶の文化やおいしい入れ方を学ぶ「八女茶ソムリエスクール」

 

存続をかけて

 

八女茶のはじまりは、明(中国)から帰国した栄林周瑞(えいりん・しゅうずい)禅師が1423(応永30)年に現在の八女市内に霊巌寺(れいがんじ)を建立し、お茶の栽培を伝えたのが由来とされる。

 

八女茶は八女市やその周辺地域で栽培されるお茶で、茶種は煎茶(せんちゃ)、かぶせ茶、玉露、てん茶(抹茶)などがある。広義には同県で栽培されるお茶の総称で、数々の茶品評会で賞を受賞し、九州を代表するブランド茶として認知されている。

 

栽培に適した土壌と気候を生かして栽培面積を広げ、八女市とその周辺は福岡県を代表する茶の産地となった。同県の令和3年の茶の生産量は1650トンと全国6位。国内生産量のシェアは2・3%にとどまるが、量より質で勝負し、とりわけ八女伝統本玉露は全国的に高く評価されている。毎年開かれる全国茶品評会の玉露の部で、八女市は昨年まで22回連続で産地としての最高賞である産地賞を受賞している。

 

しかし近年は将来が危ぶまれる状況にある。ペットボトル飲料の普及などでお茶をめぐる環境は大きく変わり、急須で入れる人も少なくなった。八女茶を生産する農家は減少を続け、令和3年は2046戸と、平成5年(4891戸)の約4割に、生産量も10年前に比べ500トン以上落ちた。

 

福岡県茶業振興推進協議会(八女市)の松延久良事務局長は「家庭内での消費が低迷し、贈答用としてのお茶も動かない。本当にいいお茶でないと価格が付かない時代になった。600年続いたブランドが将来も存続できるよう、それぞれが力量を発揮しないといけない」と強調する。

 

地元でも八女茶の存続をかけた事業が立ち上がった。八女商工会議所などは今年度、茶葉から入れる文化の再興と飲み手の裾野拡大を目指し、専門家や生産者らがお茶のおいしい入れ方や八女茶の歴史を伝える「ソムリエスクール」を開講した。

 

急須からワイングラスに注がれるのはほうじ茶と紅茶のブレンド茶。1月のスクールでは4人の女性がおいしい八女茶の入れ方を学んでいた。講師で日本茶関係のイベント会社を営む竹中昌子さん(37)は、香りや味を引き立たせる方法を説明し、「季節のフルーツを合わせたアレンジティーも楽しんで」と果物を加えたお茶も披露した。今後コースを増設し、指導者の育成も目指す。

 

green tea
茶畑が見渡せる八女中央大茶園にカフェを開設する西村太喜さん

 

若手生産者も奮闘している。一面に広がる茶畑が有名な「八女中央大茶園」で栽培を手掛ける西村太喜(だいき)さん(31)と中嶋孝次さん(49)は今春に向けて、大茶園の展望所で八女茶が味わえるカフェを開設する準備を進めている。

 

西村さんは「すばらしい景観が広がる場所だが、地域振興に生かせていない課題があった。生産者のこだわりを伝え、若い人にお茶に親しんでもらいたい。八女茶を守るだけでなく、発展させたい」と意気込んでいる。

 

筆者:一居真由子(産経新聞)

 

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